秋の夜長か…。古座川で出会ったある釣り師の人。

秋の夜長とはよく言ったものである。
夢の4連休もいよいよ今日で最後となる。しかし、この4連休は長く感じた。充実した日々であった。

この前、古座川流域をサイクリングしてきたわけである。古座川は、串本に住んでいた頃から、よく夏になると親戚の人らとバーベキューに行ったりしていて、思い出深い場所なのである。

あの頃と水の透明度はほとんど変わらない。変わったのは、周辺の道路が立派になったことだろうか…。古座川は今や、カヌーで有名になった。全国からカヌーの愛好家が来ていて、シーズン中はいろいろな挺が川を滑っていく。私も過去何度となく観光協会のレンタルカヌーを借りて、川下りを楽しんでいる。

中でも思い出深いのが、1人の釣り師と出会ったことだった。その人はちょうど川の中ほど、どのあたりだったかは忘れたが、カーブしていて急流になってエイヤッっとバランスをとって、カヌーを操縦したら、次にトロ場に出てみると、お~い、と中洲の方から声が聴こえる。見てみると、こちらに手を振りまくって笑っている。どうしました? と言うと、釣り糸が川の中ほどの水中に引っかかったらしく、どうしても取れないと…。あんた、ちょっと釣り竿持っててくれんやろかと…。えーですよ! とオイラは、挺を中洲へ引っ張りあげ、ついでに溜まった水を抜いて、干す。そして、その人の釣り竿を持ってあげると、その人、ちょっと潜って見てみるわー、と言って、やおら水中へドボン! 一回目。プハァ~、あかんわぁー、ちょっと深くて、もう一度行くわー、ドボン。二回目。プハァ~、あかんなー、しぶといなー。木の根っ子が底の方にあって、そこへどうやら引っかかっているらしい。三回目。ドボン。プハァ~。やっと取れたわぁー。ありがとう!
と言って、その人、中洲へ上がってくる。満面の笑顔である。

ところであんた、どっから来たん? オイラはこの上流の一枚岩のちょっと下の方です。という。そう。最近は、カヌー多いよー。釣りの人も多いけど、うまくやり過ごしてるみたいやな。あなたは、どこの人?とオイラ。その人は、何でも相瀬に住んでいるとか。定住しているわけではなく、古民家を畑ごと借り受けて、夏の暑い時期だけ、こうして、日がな一日釣りに興じているという。本来の住所は天王寺だという。ほぉー。大阪からわざわざ…。そう、私の妻は、どうも田舎が苦手で誘っても絶対に来ないと言ってた。それで、妻を1人、天王寺に残して、こうして、私だけ、相瀬に夏中住んで、こうして大好きな釣りを毎日やってるわけだと。素晴らしい! 私も暇を見つけては、こうして古座川を下りにカヌーでやってきてるわけですわ、とオイラ。

その人、今度、自転車で来るんなら、寄ってってよ。相瀬に住んでるからさ、と。ハイ、そうします。今日はあんたが来てくれて、助かったわ。誰も通らんかったら、釣り糸絶対に取れんかった、と…。いえいえ、どういたしまして。

じゃ、さいなら。また会いましょう、と言ってお別れをして、また河口までのんびりと下って行ったわけであった。

あのオヤジにはその後、お会いしていないが、きっと毎年、夏になると釣り三昧の日々を送っているのだろう。それにこの付近の家を借りると言っても相当安いらしい。田舎暮らしの好きな人は、試しに季節ごとに借り受けて、体験してみたらどうだろうか?

古座川は、夏に行くと最高なのであるが、ここは冬は心底冷えるのである。大塔山から流れ出るその川の水は冷たく、昔は、切り出した木材を河口まで筏で流し、また、何日かかけて帰ってくるというのが、村人の生活だったらしい。戦前など、林業が最盛期だった頃は、川の中流付近には映画館まであったくらいの人出だったらしい。今ではとても信じられないことだが…。

それと、もっと昔、車という交通手段がなかった頃、人は獣道を歩いて何日もかけて串本などの町へ木炭などを売り、引き換えに干物の魚などを仕入れて帰っていたらしい。聴くところによると牟婁病という恐ろしい風土病があったという。その正体は今で言うアミトロ。ALSである。筋萎縮性側索硬化症。全身の筋肉が脱力し、やがて死んでしまう恐ろしい病気である。その原因は川の水にあったとされる。清流すぎるくらいの清流の古座川であるが、その水はあるミネラルに欠ける成分であったようだ。そのため、流域の村からまったく外へ出ず、一生海を見ずに死ぬ人もいたという昔は、川の魚や川の水が生活のすべてであった。その貧弱なミネラル成分ゆえに、こうした恐ろしい病が発症したとも考えられているが、今では否定されてもいる。

さて、司馬遼太郎氏も大層、この古座川流域を好んだという。氏の別荘が一雨にあるくらいであるから、相当なものである。街道をゆくの第8巻に古座街道は収められている。戦前の古座川流域の話を聞くとおとぎ話のように聞こえる。今は、過疎化の一途であり、若者の定着を願ってこの観光カヌーも町をあげてやっているわけである。古座というともうひとつ名物がうなぎである。そのウナギを以前、河口の古座の町にある老舗の鰻屋で食ったことがあったが、絶品と評するにふさわしいその味が忘れられず、また食いたい一心で探したのであるが、そのお店は廃業されていた。店主が高齢になったためだとか…。
古座を走り切ると、お腹が減って、いつもウナギを食うべく楽しみにしていたのであるが、非常に残念である。

次は、奇岩だけにスポットを当てて、撮影してみたいと思っている。ボタン岩とか、虫喰岩とか、おもしろい奇岩がたくさんあるので…、と秋の夜長につらつらと思い出を回想してみたのである。眠くなったので、二度寝することにする。
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